歌っていると、途中で気持ち悪くなって、ストップしちゃうんだよね。
喉が痛いわけじゃないし、疲れているわけでもないから、悔しい気持ちになるよ。
練習時間を確保しても、全然練習できないんだよな。
理由が分からないから、対策も立てられないんだ。
今回の記事は、このようなお悩みに対する内容です。
まず初めに、私は嘔吐反射という症状が強いです。
歯を磨く時は、歯ブラシを奥の方に移動させると、すぐに気持ち悪くなってしまいます。
そして、ある時から、その症状が、歌っている時にも出るようになってしまいました。
音程を上げようとすると、すぐに気持ち悪くなってしまうのです。
練習したい気持ちはあるけど、歌うと気持ち悪くなってしまう。
そのような症状から、思うように練習ができず、悩んでいる時期がありました。
そこで考えたのが、今回の内容です。
今回の内容を意識した結果、歌っている時の気持ち悪さから解放されました。
今回の記事の内容は、医学書に書かれていたものではなく、私自身で考えたものです。
それをご理解いただいた上で、ぜひ、最後までご覧ください。
では、スタートです。
歌唱中の嘔吐反射への対策
では、私が意識している、歌唱中の嘔吐反射への対策をお伝えします。
なぜなら、日常で嘔吐反射が起きる時と、同じ刺激を与える動きだと考えられるからです。
日常で嘔吐反射が起きる時は、歯を磨いたり、マウスピースの型を取ったり、診察で舌の奥を触れられたりする時です。
それらは全て、喉の奥の部分を刺激する動きです。
なので、私は、嘔吐反射が起きる原因が、喉の奥の部分を刺激する動きだと推測しました。
そして、それが正しいとすれば、歌唱中にも、喉の奥を刺激する動きが起きているはずです。
その可能性として、私の考えた動きが、喉にある喉頭という部分が持ち上がる動きです。
喉頭が持ち上がることで、喉の奥の部分が刺激され、嘔吐反射が起きるということです。
そこで、私は、歌唱中に喉頭が持ち上がらないようにするという対策を立てました。
すると、その結果、実際に歌唱中の嘔吐反射は無くなり、気持ち悪さから解放されました。
なので、私が意識している歌唱中の嘔吐反射への対策とは、喉頭を持ち上げないようにすることです。
では、なぜ喉頭は持ち上がってしまうのか。
それを、ここから解説します。
まずは、喉頭自体です。
喉頭
では、喉頭を解説します。
喉頭は、合計4つの軟骨で構成されます。
1つが土台で、その上の前側に1つ、後ろ側に2つです。
そして、その前後の軟骨に、声帯がV字でくっついています。
声帯を伸ばす時は、前側の軟骨を前に傾けます。
その時に使われる筋肉が、輪状甲状筋です。
この筋肉は、また後で出てきます。
頭の片隅に置いておいてください。
喉頭の位置
次は、喉頭の位置です。
なぜなら、喉仏は、喉頭を構成している前方の軟骨が作っているからです。
なぜなら、喉頭の位置は、骨ではなく周囲の筋肉で固定しているからです。
下記の文章をご覧ください。
“喉頭は骨などに固定されていないので、周囲の筋肉の力によって位置を動かすことができます。”
(『3オクターブは当たり前! 喉に優しい 魅惑のハイトーンボイス養成メソッド』 株式会社つた書房、著者 AKIRA、2016年、p.48)
喉頭の上側と下側の筋肉で、中心にある喉頭の位置をX字に固定します。
そのため、喉頭の位置は、上下の筋肉の力のバランスで決まります。
上側の筋肉の方が強くなれば持ち上がり、下側の筋肉の方が強ければ引き下がります。
つまり、喉頭が持ち上がってしまうということは、上側の筋肉に余計な力が入り、バランスを崩してしまっているということです。
では、なぜ、歌唱中に、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に力を入れてしまうのか。
次は、私が経験した理由と対策をお伝えします。
喉頭を持ち上げてしまう理由と対策
歌唱中に、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に力を入れてしまう理由は、私が経験したものとして4つあります。
1つずつ、対策とともにお伝えします。
理由1:喉頭の位置の勘違い
まずは、1つ目の理由です。
この記事の前半で、喉頭の位置を確認しました。
実際に手で触って確認していただきたいのですが、思ったよりも斜め後ろ下にあるように感じませんか。
それは恐らく、歌唱中に体感している振動が、声帯よりも口やノドの共鳴腔の方が強いからです。
体感として強いので、歌唱中は、口やノドの共鳴腔を意識しているということです。
また、最初は喉頭の位置を正しく意識していたとしても、歌っているうちに口やノドの共鳴腔に意識が移動してしまうこともあります。
そして、その結果として、喉頭の位置をノドの共鳴腔の位置と勘違いしてしまうと、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に力を入れてしまいます。
なぜなら、ノドの共鳴腔を作っている筋肉の中には、喉頭の位置を固定している上側の筋肉が含まれるからです。
例えば、音程を変化させようとした時に、喉頭の筋肉に力を入れるつもりが、間違えて、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に力を入れてしまうのです。
その結果、喉頭の位置を固定している上下の筋肉の力のバランスは崩れ、喉頭が持ち上がってしまいます。
なので、1つ目の理由は、喉頭の位置の勘違いです。
この対策は、喉頭の正しい位置を意識し続けることです。
私は、歌唱中に、喉仏を実際に触って位置を確認することもあります。
理由2:息の量が多すぎること
次に、2つ目の理由です。
歌唱中に息の量が多くなってしまうと、その息の量でも声帯が耐えられるように、周囲の筋肉にさらに力を入れようとします。
その時に、間違えて、喉頭の位置を固定している上側の筋肉にも力を入れてしまうのです。
その結果、喉頭の位置を固定している上下の筋肉の力のバランスは崩れ、喉頭が持ち上がってしまいます。
なので、2つ目の理由は、息の量が多過ぎることです。
この対策は、最適な息の量を意識しながら歌うことです。
理由3:肺に空気のストックがない状態で歌ってしまうこと
次に、3つ目の理由です。
肺に空気のストックが無い状態で歌ってしまうと、無意識に、最後の空気までしっかりと押し出そうとします。
その時に使われる肋骨を狭める筋肉の緊張が、喉頭の位置を固定している上側の筋肉にも伝わってしまうのです。
その結果、喉頭の位置を固定している上下の筋肉の力のバランスは崩れ、喉頭が持ち上がってしまいます。
なので、3つ目の理由は、肺に空気のストックがない状態で歌ってしまうことです。
この対策は、空気のストック量を意識しながら歌うことです。
理由4:脱力させる筋肉と脱力させない筋肉のコントロールができていないこと
最後に、4つ目の理由です。
この記事の最初で確認したように、声帯を伸ばす主要な筋肉は輪状甲状筋です。
輪状甲状とその他の筋肉との関係について、ピンポイントで表現されている文章があります。
下記の文章をご覧ください。
“輪状甲状筋の活動はノドの筋肉を収縮させる動きと関連があるので、訓練を受けていない歌手は、ピッチを上げると次第に喉頭を締め付けたり、持ち上げたりすることが多くなります。”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.53)
つまり、輪状甲状筋に力を入れる時は、喉頭の位置を固定している上側の筋肉にも力が入りやすいということですね。
輪状甲状筋に力を入れるからといって、喉頭の位置を固定している上側の筋肉にまで力を入れてはいけません。
そのコントロールができていないと、頻繁に喉頭を持ち上げることになってしまいます。
なので、4つ目の理由は、脱力させる筋肉と脱力させない筋肉のコントロールができていないことです。
この対策は、脱力させる筋肉をしっかりと意識することです。
ただし、この場合、ちょっとややこしいことがあります。
それは、この力の入り方が、必ずしも間違いではないということです。
それを次に解説します。
喉頭を引き下げる意識を持つ場面
まずは、下記の文章をご覧ください。
“ピッチが上がって輪状甲状筋の活動が最大になると、声帯ヒダを伸ばすためには喉頭の挙上筋(茎突舌骨筋、オトガイ舌骨筋、舌骨舌筋、甲状舌骨筋など)(〇印)の助けを借りることが必要となり…”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.53)
つまり、輪状甲状筋を最大限に使っている状況では、喉頭の位置を固定している上側の筋肉の力も使う場合があるということですね。
この場面でも力を入れないように意識するのは、逆効果です。
なぜなら、対抗する力を入れることで、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に力を入れながらも、喉頭が持ち上がることを防げるからです。
そのような対策は可能です。
下記の文章をご覧ください。
“喉頭を下げるはたらきのある外喉頭筋(特に、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋)を使用することで、喉頭を持ち上げる外喉頭筋の作用に積極的に対抗することができます”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.54)
なので、音程を上げる状況で喉頭が持ち上がりそうになった場合には、喉頭の位置を固定している下側の筋肉にも力を入れます。
歌唱面での効果
歌唱中の嘔吐反射への対策を振り返ります。
下記にまとめました。
- 対策1:喉頭の位置を固定している上側の筋肉に余計な力を入れないようにすること
- 対策2:喉頭の上側の筋肉の力が必要な場合には、喉頭の位置を固定している下側の筋肉にも力を入れること
基本的な対策は、喉頭の位置を固定している上側の筋肉に余計な力を入れないようにすることです。
そして、その上側の筋肉の力が必要な場合には、下側の筋肉にも力を入れて、バランスを取ります。
ここまで、これらの対策は、嘔吐反射を防ぐという目的でお伝えしました。
しかし、実はこの対策2は、歌唱面でも2つの効果を生み出します。
最後にそれを、1つずつ解説します。
1つ目の効果:音域を広げられること
まずは、1つ目の効果です。
なぜなら、輪状甲状筋が声帯を伸ばす動きを、アシストできるからです。
下記の文章をご覧ください。
“喉頭を引き下げ、低い位置に保つことには2つのメリットがあります。まず、それは甲状軟骨を前に引き出すことになり、輪状甲状筋が声帯ヒダを伸ばすことを助けます。”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.54)
つまり、喉頭の位置を固定している上側の筋肉と下側の筋肉に、同時に力を入れながら声帯を伸ばすと、輪状甲状筋の力だけを使う時よりも、さらに声帯を伸ばせるということですね。
言い換えれば、さらに高音を出せるようになるということです。
なので、1つ目の効果は、音域を広げられることです。
2つ目の効果:音程を改善できること
次は、2つ目の効果です。
なぜなら、喉頭の位置を固定している筋肉が、しなやかに動けるようになるからです
例えば、喉頭の位置を固定している上側の筋肉だけに力を入れたとします。
すると、その筋肉はだんだん固くなり、しなやかに動けなくなります。
そして、その状態では、その筋肉が支えている喉頭も自由に動けなくなります。
それは、言い換えれば、音程を自由に変化させられないということです。
一方で、喉頭の位置を固定している下側の筋肉にも力を入れて、逆向きの力を発生させたとします。
そうすると、上下の筋肉は形を維持しながらもしなやかに動けるようになります。
これは、輪ゴムでイメージできます。
ゴムが戻ろうとする方向と逆向きに力を入れることで、常に形を作りながらもしなやかに動けるようになりますね。
そして、その結果、喉頭も自由に動けるようになり、音程も自由に変化させられます。
なので、2つ目の効果は、音程を改善できることです。
以上が、対策2による、歌唱面での2つの効果です。
これらの効果があるので、歌唱中に嘔吐反射が起こらない方でも、意識すると良いポイントです。
特に、高音域以上を歌う時に、効果を感じられます。
まとめ
まとめです。
その対策とは、喉頭を持ち上げないようにすることでした。
実は、私が歌の練習を始めた初期の頃は、嘔吐反射は起きませんでした。
それは、恐らく、そもそも喉頭の周囲の筋肉を脱力できておらず、喉頭が自由に動けなかったからです。
その後、脱力ができるようになって、喉頭が自由に動けるようになりました。
しかし、だからこそ、簡単に持ち上がるようになってしまったのです。
そういう意味では、嘔吐反射が起きる状態というのは、喉の形が完成するまであと一歩の状態と言えるかもしれません。
ぜひ、今回の対策を意識しながら練習してください。
では、今回の記事は、これで終わりです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。