歌う時は脱力が重要って聞いたけど、理由がわからないんだよね。
音程がスムーズに変わらないのは、脱力ができてないからって本当かな。
プロの人たちも力が入っているように見えるけど、何が違うんだろう。
脱力させる筋肉は、どこを意識すればいいのかな。
今回の記事は、このようなお悩みに対する内容です。
“声帯の形はOK。”
“息の量も最適。”
“喉頭の位置も正しく意識している。”
私は、このような小さなポイントを1つずつ確認しながら歌声を作ります。
しかし、ある時、日頃意識しているポイントを全て確認しても、以前出せていたはずの歌声が出せないことがありました。
結論から言うと、その時に足りなかったポイントが、脱力です。
脱力を意識したきっかけは、何時間も歌った後の最後の一曲を、半ばあきらめながら歌ったことです。
その時に、これまで出せなかった最高音を、楽に出せてしまったのです。
恐らく、疲れていて、勝手に適切な場所が脱力されたのでしょう。
もちろん、脱力だけをすればいいというわけではありませんが、その時に、偶然にも脱力の重要性を体感できました。
そして、その時の感覚を、もう一度再現したくなりました。
そこで考えたのが、今回の内容です。
今回の内容を意識した結果、適切な場所を脱力できるようになりました。
今回の内容は、音域の悩みを一気に改善できる可能性があります。
ぜひ、最後までご覧ください。
では、スタートです。
【まずは抽象的に】歌唱中に脱力させる筋肉
まずは、抽象的に、私が意識している、歌唱中に脱力させる筋肉をお伝えします。
なぜなら、音程をスムーズに変えられるからです。
喉頭とは、声帯が収められている小さな箱のようなものです。
合計4つの軟骨で構成されています。
1つが土台で、その上の前側に1つ、後ろ側に2つです。
そして、その前後の軟骨に、声帯がV字でくっついています。
声帯を伸ばす時は、前側の軟骨を前に傾けます。
そのため、喉頭の周囲の筋肉を緊張させて硬くすると、その傾く動きが邪魔され、声帯を上手く伸ばせなくなります。
それは言い換えると、音程を上手く変化させられないということです。
なので、歌唱中は、基本的に、喉頭の周囲の筋肉を脱力させます。
ただし、全ての筋肉を脱力させるわけではありません。
基本的に、というあいまいな表現になっているのは、そういった理由です。
状況によっては、喉頭の周囲の筋肉でも、緊張させる場合があります。
このウェブサイトの他の記事でも、緊張させる可能性のある筋肉をいくつか解説しています。
その数は少ないので、脱力させる筋肉を覚えるよりも、緊張させる可能性のある筋肉を覚える方が簡単です。
【具体的に】歌唱中に脱力させる4か所の筋肉
では、具体的に、私が意識している、歌唱中に脱力させる4か所の筋肉をお伝えします。
先ほど確認したように、歌唱中は、基本的に、喉頭の周囲の筋肉を脱力させます。
まず、この喉頭の周囲の筋肉という部分をもう少し細分化します。
それが、下記の4か所の筋肉です。
- 喉頭の前側にある筋肉
- 喉頭の後ろ側にある筋肉
- 喉頭の上側にある筋肉
- 喉頭の下側にある筋肉
ここからは、それぞれの場所に対応した筋肉を、1つずつお伝えします。
喉頭の前側にある筋肉
1つ目は、喉頭の前側にある筋肉です。
この筋肉は、首を曲げたり、回転させたりする時に使う筋肉です。
横を向いた時に、縦に筋が入る筋肉ですね。
この筋肉は、喉頭にくっついているわけではありません。
しかし、喉頭の前側にあるので、緊張させて硬くすると、喉頭の前側の軟骨を前に傾ける動きを邪魔します。
つまり、声帯を伸ばせなくなるということです。
その状況を、とても分かりやすく表現されている文章があります。
下記の文章をご覧ください。
“これは自動車で言うとアクセルとブレーキを同時に踏みながらスピードを出そうとしているのと同じなのです。”
(『ボーカリストのための高い声の出し方』 株式会社ドレミ楽譜出版社、著者 DAISAKU、2008年、p.15)
確かにそうですよね。
自分で声帯を伸ばそうとしているのに、自分で壁を作って邪魔をしている状況は、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものです。
間違った動きだということが、簡単に理解できますね。
喉頭の後ろ側にある筋肉
次は、喉頭の後ろ側にある筋肉です。
少し細かい話ですが、下咽頭収縮筋は、甲状咽頭筋と輪状咽頭筋に分かれます。
その内、輪状咽頭筋は、喉頭の下側の筋肉に含まれます。
なので、ここでは、下咽頭収縮筋は甲状咽頭筋を指すこととします。
下咽頭収縮筋は、咽頭という喉頭周辺の共鳴腔を作っています。
下咽頭収縮筋の脱力が必要だと、明確に本に書かれていたわけではありません。
しかし、下記の理由で、脱力が必要だと考えます。
まず、下咽頭収縮筋は、喉頭を構成する甲状軟骨にくっついています。
下記の文章をご覧ください。
“下咽頭収縮筋は、甲状軟骨の斜線を起点として上方後ろにカーブし、…”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.64)
そして、下咽頭収縮筋は収縮が可能です。
下記の文章をご覧ください。
“空気だけ通る咽頭鼻部は形が変わりませんが、咽頭の下3分の2にあたる部分は収縮、膨張、伸長といった動きが可能です。”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.62)
つまり、下咽頭収縮筋を緊張させて、硬すると、その筋肉がくっついている喉頭の傾く動きが邪魔されると考えられるのです。
言い換えれば、スムーズに音程を変えられないということです。
なので、下咽頭収縮筋(甲状咽頭筋)も脱力させます。
喉頭の上側と下側にある筋肉
最後に、喉頭の上側と下側にある筋肉をまとめてお伝えします。
ここまでの2か所の筋肉は、具体的な筋肉名をお伝えしました。
近い位置で同じ動きをする筋肉は、まとめて覚えた方が、チェックポイントを少なくできます。
ただし、それらの筋肉は、脱力だけでなく、上下の筋肉の力のバランスも重要です。
つまり、緊張させる可能性のある筋肉ということです。
他の2か所とは異なり、分けて考えたいので、下記の記事で解説しています。
以上が、私が意識している、歌唱中に脱力させる4か所の筋肉です。
では、なぜ、歌唱中に、それらの筋肉を緊張させてしまうのか。
次は、私が経験した理由と対策をお伝えします。
なお、ここからの内容は、下記の2か所の筋肉についての解説です。
- 喉頭の前側にある筋肉…胸鎖乳突筋
- 喉頭の後ろ側にある筋肉…下咽頭収縮筋
歌唱中に緊張させてしまう理由と対策
歌唱中に、胸鎖乳突筋と下咽頭収縮筋を緊張させてしまう理由は、私が経験したものとして4つあります。
1つずつ、対策とともにお伝えします。
理由1:喉頭の位置
まずは、1つ目の理由です。
歌唱中は、声帯の振動よりも、口やノドの共鳴腔の振動の方が体感として強いです。
なので、歌唱中は、口やノドの共鳴腔を意識しがちです。
また、最初は喉頭の位置を正しく意識していたとしても、歌っているうちに口やノドの共鳴腔に意識が移動してしまうこともあります。
そして、その結果として、喉頭の位置をノドの共鳴腔の位置と勘違いしてしまうと、下咽頭収縮筋を緊張させてしまいます。
なぜなら、ノドの共鳴腔を作っている筋肉の中に、下咽頭収縮筋が含まれるからです。
例えば、音程を変化させようとした時に、喉頭の筋肉に力を入れるつもりが、間違えて下咽頭収縮筋に力を入れてしまうのです。
なので、1つ目の理由は、喉頭の位置の勘違いです。
この対策は、喉頭の正しい位置を意識し続けることです。
喉頭は、喉仏の裏側にあります。
私は、歌唱中に、喉仏を実際に触って確認することもあります。
理由2:息の量が多すぎること
次に、2つ目の理由です。
歌唱中に息の量が多くなってしまうと、その息の量でも声帯が耐えられるように、周囲の筋肉にさらに力を入れようとします。
その時に、間違えて、胸鎖乳突筋や下咽頭収縮筋も緊張させてしまうのです。
なので、2つ目の理由は、息の量が多過ぎることです。
この対策は、最適な息の量を意識しながら歌うことです。
理由3:肺に空気のストックがない状態で歌ってしまうこと
次に、3つ目の理由です。
肺に空気のストックが無い状態で歌ってしまうと、無意識に、最後の空気までしっかりと押し出そうとします。
その時に使われる肋骨を狭める筋肉の緊張が、胸鎖乳突筋や下咽頭収縮筋にも伝わってしまうのです。
なので、3つ目の理由は、肺に空気のストックが無い状態で歌ってしまうことです。
この対策は、空気のストック量を意識しながら歌うことです。
理由4:脱力させる筋肉と脱力させない筋肉のコントロールができていないこと
最後に、4つ目の理由です。
声帯を伸ばす筋肉は、輪状甲状筋と言います。
輪状咽頭筋とその他の筋肉との関係について、ピンポイントで表現されている文章があります。
下記の文章をご覧ください。
“輪状甲状筋の活動はノドの筋肉を収縮させる動きと関連があるので、訓練を受けていない歌手は、ピッチを上げると次第に喉頭を締め付けたり、持ち上げたりすることが多くなります。”
(『イラストで知る 発声ビジュアルガイド』 株式会社音楽之友社、著者 セオドア・ダイモン、訳者 竹田数章(監訳)、篠原玲子、2020年、p.53)
このノドの筋肉とは、咽頭の筋肉のことです。
つまり、輪状甲状筋に力を入れる時は、下咽頭収縮筋にも力が入りやすいということですね。
輪状甲状筋に力を入れるからといって、下咽頭収縮筋にまで力を入れてはいけません。
なので、4つ目の理由は、脱力させる筋肉と脱力させない筋肉のコントロールができていないことです。
この対策は、脱力させる筋肉をしっかりと意識することです。
まとめ
まとめです。
その筋肉とは、胸鎖乳突筋、下咽頭収縮筋、喉頭の上側の筋肉、喉頭の下側の筋肉でした。
時々、プロのアーティストの方で、険しい表情をしながら歌われている方をお見かけします。
まるで、ひどく力が入っているかのようです。
ただ、今回の記事で解説したように、そのような表情をされていても、喉頭の周囲の筋肉は脱力されているはずです。
では、なぜそのような表情をされるのでしょうか。
私の見解ですが、それは、顔の筋肉に意識を持っていけるからです。
言い換えれば、喉頭の周囲の筋肉から意識を逸(そ)らせるということです。
その結果、喉頭の周囲の筋肉が緊張しそうな場面でも、脱力を維持しやすくなります。
例えば、右手を強く握ってくださいと言われた時に、左手まで強く握ることはないですよね。
むしろ、力は抜けていくでしょう。
それと同じです。
もちろん、これだけが理由ではないでしょうが、これが私の見解です。
私は、昔、その表情を見て、とてつもない力で高音を出しているのだと勘違いしました。
その後、高音を出そうと、ひたすら力を入れて練習しましたが、すぐに喉が痛くなってしまいました。
今思えば当然ですね。
ぜひ、適切な脱力を意識しながら練習してください。
最初は難しいかもしれませんが、具体的な筋肉を意識することで、少しずつ感覚をつかめます。
では、今回の記事は、これで終わりです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。